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2014年2月/蛭子屋・兼古


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冬日の感動と興奮

蛭子屋 宗一
(日本スケッチ画会 会計理事)

毎日一時間程の愛犬との散歩が日課である。

この、日頃の散歩の中で見慣れた景色に、ある瞬間感動を受けることがある。
特に冬場の澄み切った空気の朝、太陽が顔を見せる日の出の時や日が沈む頃。
葉が落ちた小高い丘の周囲があかね色に染まった風景は何とも言えない興奮を覚える。
この景色を写真ではなく絵に描けないものかと、厳寒の中を絵の道具を持って現場に出向いてみる。

しかし、天気は気ままなもの。
いつも晴れているわけではないから、そんなときは諦めて待つしかない。
天候の条件が整ったところでも、夕日が沈むときなどは釣瓶落しとはよく言ったものであっと言う間に陽が落ちる。
作品として完成させるには、事前準備が必要で下描きデッサンから始まって着色するまで、時間が短いので少なくとも三日はかかる。
寒さや時間と戦いながら、名所ともいえないありふれた近場の風景を描き切った時には格別な喜びを感じる。

このような感動や興奮で描いた絵には思い入れもあり気に入った作品が多い。
私の感動が見る人の琴線に触れるのか、発表の折にスケッチ場所の話題で盛り上がったりするのも愉快なことだ。

さあ!今日もそろそろ犬が散歩の催促する時間だ。

右近としこに出会って

兼古 良一

七年程前に 右近 としこ に出会った。そして 彼女が講師であるスケッチ海外ツアーに三回参加した。

 彼女はご主人の仕事の関係で永い事アメリカの生活が多かったが、ご主人を亡くしてからもアメリカに在住し今でもオレゴンにアトリエを構えて日本と行ったり来たりしている。もともと油絵、パステル画を描いていたが30年ほど前に水彩画の魅力に取り付かれ今ではアメリカの四つの水彩団体の正会員となり活躍している。

 アメリカでは ワークショップ と言って生徒の目の前で解説しながら作品を仕上げて行く、パレットの色の作り方、鉛筆デッサン、どこから彩色して行くか、惜しげもなく全て見せてくれる手法。アメリカではこの様なワークショップが水彩画だけでも100以上あると言う。彼女はその手法を日本にも取り入れて人気を博している。

 そして 右近としこ は線ではなく 面で捉えると説く。たしかに普段我々が見ている風景や、静物、人物には線は存在しない。あくまでも光と影そして色を見ている。それを我々は便宜的にペンや鉛筆でデッサンし彩色している。そして彼女は面と面の境目はウエット・イン・ウエットの手法でにじませることでより立体感のある表現に変わるとしている。

 勿論私も現場で早描きするにはペンや鉛筆の線を生かして描くことも多いが、作品として仕上げる時は線が邪魔になれば消してしまう。

 そして彼女は現場のスケッチでは七割程度で終わりにする、そしてアトリヱで絵造りをして行く。後で石ころが入ったり、人物が入ったり、より明暗が強くなったりしてくるのを良く見る。

 私もこれからはより水をたっぷり、ウェット・イン・ウエットの手法を取り入れ少しでも 右近としこ に近づきたいと思っている。


2014/02/10