スケッチ随想
2021年6月/坂田
スケッチ随想
コロナ渦に想う
坂田 健一
(日本スケッチ画会理事・副事務局長兼会計担当)
ある水彩画家が、「自分の個展開催の時に、作品の前で涙ぐんでいる人を今まで3回見たことがある」と話していました。これは正に芸術の力だと思います。
作品を見る人に感動を与える要因としては
- 技術の確かさに加え、作品が非常に魅力的であること
- 見る人の人生経験の琴線に触れたこと
- 昔、愛する人と一緒に訪れたことがある懐かしい風景だったこと
等々が想像されます。
いずれにしても、心を和ませたり、感動を与えてくれるのが文化芸術の役割の一つだと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大により、文化芸術の分野は真っ先に「不要不急」扱いにされ、博物館、美術館等は閉館し、各種展覧会も中止・延期を余儀なくされました。
また緊急事態宣言の中、長期間の自粛生活を強いられ、我々スケッチ愛好家もストレスの溜まる日常生活が続きました。
特に昨年は得体の知れないウイルスの不安から、人々の感情がやたら敏感になり、お互いの接触もままならない状況下、「絵画等は典型的なアナログの世界であり、我々画家は絶滅危惧種として、いずれ衰退するのでは」と懸念する人もいました。
しかし一方では、コロナ禍だからこそ、日常生活に彩を与え、豊かな気持ちを保つことの必要性を実感している人も増えてきています。
私は大和市在住で、昨年は近くの「泉の森」へ何度も出掛け、「三密」を避けながらスケッチを楽しみました。展覧会の相次ぐ中止で、一時は意欲減退にも陥りましたが、屋外で絵を描く喜びを改めて感じ、何とかこのスランプを乗り切ることが出来ました。
また、数年前に病気で入院した時も、退屈な毎日で孤立感で一杯でしたが、病棟から望む素晴らしい景色を、朝夕何度もスケッチして過ごし、どれほど絵の力に助けられたことか分かりません。
コロナ禍で我々の生活は一変し、豊かさの価値観も変わりました。そもそも人生の殆どの出来事は「不要不急」であり、他人から見たら娯楽に見えるものでも、本人にとっては必要不可欠なものです。本来誰からも強制されるべきものではないと思います。
2021年度はJSAA・日本スケッチ画会発足20周年の大きな節目を迎えます。緊急事態宣言解除後のリバウンドが懸念される中ですが、感染対策を十分に行い、会員の皆様と久し振りに再会出来ることを楽しみにしております。
そしてこの時期だからこそ、芸術の力によりご来場の皆様に、少しでも希望と感動を与えることが出来るよう、JSAA展覧会の準備を進めていきたいと思います。
以上
2021/06/15